鹿児島地方裁判所 平成6年(ワ)1292号 判決 1996年1月29日
原告
前原幹人
同
前原泰子
原告ら訴訟代理人弁護士
末永睦男
被告
国分市
右代表者市長
谷口義一
被告訴訟代理人弁護士
松村仲之助
右訴訟復代理人弁護士
馬場竹彦
主文
一 被告は、原告らに対し、それぞれ二五二七万九四九二円ずつ及びこれに対する平成六年一〇月一四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、担保として、それぞれ一〇〇〇万円を供するときは、当該原告の仮執行を免れることができる。
事実
第一 原告らの請求
被告は、原告らに対し、それぞれ三二五九万九三六五円ずつ及びこれに対する平成六年一〇月一四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 請求の原因(原告ら)
(注・点線部分は争いない事実。【 】内は相手方の主張。以下同じ。)
一 原告ら
原告幹人は、良太(昭和五六年九月二日生。後記本件事故当時、国分市立国分中学校一年生)の父、原告泰子は、良太の母である。
二 事故の発生(以下「本件事故」という。)
1 良太は、平成六年五月二八日(土曜日)下校後の午後一時三〇分ころ、サッカーの練習をするため、いずれも右中学校でサッカー部に所属していた同級生三人(三宅誠、野崎法宏、石原儀人)とともに、一般公開前の鹿児島県国分市清水三〇九番地所在の国分運動公園多目的広場(以下「本件広場」という。甲二の1〜3、九の1、乙一〜六)に行った。
2 本件広場において、北東端のダッグアウト前に二基並べて置いてあったサッカーゴールのうち、北側のゴール(以下「本件ゴールという。甲二の4・5、九の2・3)について、良太と一緒に遊んでいた同級生三人のうちの一人三宅が「ゴールの位置がダッグアウトに近く、キーパーが後ろに倒れたら危ないから前に動かそう」と言い、本件ゴールを二〜三前方に移動させようとして、三宅が片方のゴールポストを押し、石原がその背後のゴール支柱を持ち上げて倒そうとして、同ゴールを前方に倒しにかかったところ、一挙に倒れてしまい、倒れてきたクロスバーが、同ゴールの前方で、右両名とは別に遊んでいた良太の腹部に当たり、良太を押し倒す形になった(甲九の3。甲四の3・4は、同ゴールと同種、同型のもの。)。なお、このとき、野崎は、ゴールからかなり離れた場所にサッカーボールを拾いに行っていた。
【三宅は、「動かすぞ」と大声で予告して、右動作にかかっており、また、良太は、同ゴールの方を向いて立ち、三宅及び石原が同ゴールを前方に傾けて倒そうとするのに応じ、前方からクロスバーを両手で支えようとしたが、勢いと重さに堪えきれず、腹部にクロスバーを受けてしまった。なお、野崎は、当初ボールを持って同ゴールの前にいたが、同ゴールを動かすというのでボールを同ゴールの端から約五メートル離れたダッグアウトの向かって右端近くに置いて手伝いに行こうと振り向いたら、すでに同ゴールは倒れた後であった。】
3 良太は、右事故により、腹部打撲の傷害を受け、同日午後三時三〇分、収容先の国分生協病院において、腹腔内出血により死亡した(甲一)。
三 本件施設及び周辺の状況
1 本件広場周辺の地理的環境
本件広場の近隣には城山団地があり(乙一)、多くの子供が居住し、本件広場を含む運動公園を子供たちが遊び場として使用し、本件広場に立ち入ることが十分想定される環境にある。
【運動公園中、本件広場及び補助グラウンドを除く他の三箇所はすでに一般公開しており、使用には許可を要し、かつ有料であったから、、右三箇所を子供たちが遊び場として使用することはなく、また、本件広場及び補助グラウンドは当時未公開であり、双方とも立入禁止の措置がされていた。なお、城山団地内には遊び場として本件広場の近くに広い公園がある。】
2 本件広場の状況
(一) 本件広場では、いずれも、同広場一般公開前の平成五年七月四日(日曜日)、社会人のラグビーの試合(甲六)が、同月二四日(土曜日)、二五日(日曜日)、同広場及び同広場に隣接する陸上競技場(乙一)で、各二面のコートを使用して、三二チーム参加の国分テクノ杯ちびっ子サッカー大会(甲七の1・2)が行われた。
【国分テクノ杯ちびっ子サッカー大会で同広場を使用したのは、同月二四日、参加一六チームによる二〇試合であった(甲七の2)。右ラグビーとサッカーの試合は、一般公開前に試験的に使用させたにすぎず、一般公開は、翌六年七月二三日(土曜日。乙九)であり、本件事故当時(平成六年五月二八日)は未公開であった。】
(二) 本件広場は、本件事故当時以前から、大学生や高校生、中学生らがサッカーやラグビーの練習をしたり、遊んだりするなど、事実上立入り及び使用が可能な状況にあった。
【本件広場は、市民の立入り及び使用が禁止されていた上、被告は、本件広場の芝の刈込み、施肥、巡視など通常の管理を行っており、市民は利用していなかった。】
(三) 本件事故当時、本件広場の六箇所の出入口(甲九の1、乙二のA・B・C・D・F・Gの箇所)のうち、三箇所、(乙二のA・B・Gの箇所、乙三の1〜4・9)は施錠されていたが、観覧席から本件広場へ通じる出入口二箇所(乙二のC・Dの箇所、乙三の5・6)と北側出入口一箇所(乙二のFの箇所、乙三の7・8)には立入禁止の看板もロープもなく、自由に出入りができる状況にあった(甲八の42頁、乙二・四)。
【北側出入口一箇所(乙二のFの箇所、乙三の7・8)には、ロープが二条張ってあった。】
3 本件ゴールの重量、寸法等及び保管状況
(一) 重量・寸法
本件ゴールは、アルミ丸パイプ製(一部ステンレス製)の、全体の重さが142.76キログラム(乙一一)、下端が地上2.44メートルである水平なクロスバー(甲九の2の正面見取図の上部水平ポールのこと)、7.32メートルの間隔(内側面の間隔)をもつ二本の垂直なゴールポスト、奥行き1.8メートルからなるが(甲九の2、乙一〇)、クロスバーが重量の大半を占めていた。本件事故当事、同ゴールは、後方から少し押しただけで容易に前方に倒れやすい構造・形態を有しており(ゴール支柱(つっかえ棒)を五十数センチメートル持ち上げた程度で簡単に倒れる。)、実際に倒れた場合には、その重量等に照らし、死傷事故を生じかねない危険性を内在させていた。
【本件ゴールは、重量一四〇キログラム余のもので、簡単には倒れない。】
(二) 保管状況
本件事故当時、本件ゴールは、もう一基のゴールとともに、地面に接するパイプ部分に杭を打ち込んで固定することも、クロスバーとゴールポストを地面に接するように倒したりすることもなく、それぞれ向きを違えて、立てた状態で置かれており、その使用を禁止する旨の表示はなかったが、ゴールは、倒れて事故が起きないように、使用する場合には杭等で固定し、保管する場合にも、杭等で固定するか、重心の低い状態にするためクロスバーとゴールポストを地面に接するように倒して保管するのが常識である(甲三の1〜3、一一)。
四 被告の責任
1 公の営造物
本件ゴールは、被告が設置・管理する公の営造物である。
2 本件ゴールの設置又は管理の瑕疵
右三の1・2のような本件広場周辺の地理的環境、同広場の状況に照らせば、同広場内に中学生が立ち入る可能性のあることは容易に予見できたところ、右三の3の(一)のような本件ゴールの重量、寸法等を合わせ考慮すれば、同広場に立ち入った中学生によって、同ゴールが倒されて死亡事故等が惹起されることのないような危険防止措置、注意喚起措置を講じるべきであった。
しかるに、被告は、右三の3の(二)の保管状況のとおり、かかる措置を講じることなく同ゴールを放置していた結果、本件事故が起きたものであるから、その設置又は管理に瑕疵があったというべきである。
五 損害
1 良太の治療費 一万一四八〇円(甲一四の1・2)
2 良太の逸失利益
三六八八万七二五〇円
良太は死亡当時一二歳であったので、その逸失利益は、賃金センサス平成四年第一巻第一表の男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の平均給与額(年収五四四万一四〇〇円。甲一三)を基礎として、中間利息の控除については一八歳未満の者に適用する一二歳児のライプニッツ係数13.558を採用し、生活費の控除割合を五〇パーセントとして計算すると、三六八八万七二五〇円(円未満切捨て)となる。
計算は、5,441,400×0.5×13.558=36,887,250となる。
3 原告らの慰謝料二一〇〇万円
原告らが良太の死亡により受けた精神的損害に対する慰謝料としては合計二一〇〇万円が相当である。
4 葬儀費用 一三〇万円(甲一二)
5 弁護士費用 六〇〇万円
六 まとめ
よって、原告らは、被告に対し、それぞれ国家賠償法二条一項に基づく損害賠償として、右五の損害合計六五一九万円八七三〇円の二分の一(原告両名のみが良太の相続人)である三二五九万九三六五円ずつ及びこれに対する本件事故後(訴状送達の日の翌日)である平成六年一〇月一四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三 被告の反論・仮定抗弁―瑕疵の不存在・過失相殺
本件事故の態様及び以下の事実からみて、同事故は、本件ゴールの安全性の欠如に起因するものではなく、被告の通常予想しえない良太らの異常な行動により惹起されたものであり(瑕疵の不存在)、仮に、同ゴールの設置又は管理に瑕疵があったとしても、同事故は、良太及び良太の同級生らの過失が競合して生じたものであり、被害者側の過失として一体的に把握されるべきである(過失相殺)。
一 被告は、平成六年三月までに本件広場の施設等の大方の工事を終え(管理棟とトイレ棟は同年五月完成)、芝生を同年三月植え替え、その養生中の同年五月二八日、本件事故が発生した。
二 同広場は、国分市都市公園条例(乙七)により、周辺の陸上競技場、国分球場、庭球場、補助グラウンドとともに、有料公園の一つとされており、本件事故当時、未公開であり、その一般公開は、同事故後の同年七月二三日である。
三 同事故当時、同広場には六箇所から出入り出来たが(甲九の1、乙二のA・B・C・D・F・Gの箇所)、同広場一面の芝生の養生のため立入りを禁止し、北方一箇所(乙二のGの箇所、乙三の9)、南方二箇所(乙このA・Bの箇所、乙三の1〜4)、合計三箇所の門扉を閉じて施錠し、南(乙二のBの箇所、乙三の3・4)・北(乙二のEの箇所、乙三の7・8)各一箇所の目につくところに「芝養生のため立入禁止」と記載した看板を掲げ、北側門扉のない箇所(乙二のFの箇所、乙三の7・8)にはロープ二条を張って、本件ゴールを同広場の北東端に置いて保管していた(乙二)から、同ゴールには通常外力が加わることはなく、同ゴールを、地面に接するパイプ部分に杭を打ち込んで固定したり、同ゴールに使用禁止の表示をしたりすることを要しない状況にあった。
【立入禁止の看板は、芝養生のため一箇所(乙二のBの箇所)にあっただけで、同広場への立入りを禁止していたものではなく、また、他の三箇所(乙二のC・D・Fの箇所)は出入り自由であった。したがって、中学一年生で一二歳にすぎない良太が同広場に立ち入ったのは止むを得なかった。】
四 もともと、被告は、同広場のサッカーゴールを二基ともクロスバーを地面に接するように倒して置いていた(乙六、一三の1・2、一四の1・2)が同事故当日は、二基とも立っていたもので、良太らが到着する以前に勝手に同広場に立ち入った者が使用し、立てたままにしたものと思われる。
【仮に、かかる事実があったとすれば、そのこと自体が管理を怠っていたことにほかならない。】
五 良太及び同級生三名は、同広場が立入禁止であったのを知り(良太の自宅は、立入禁止の看板が掲げてある同広場南方入口から近距離にある。乙一)ながら、ここに立ち入り、良太及び同級生らは本件ゴールを無断で引き出して使用しようとし、三宅と石原が倒しにかかり、また、同ゴールは、その形状及び重量からみて、中学一年生が二〜三名で倒したり移動させたりするには危険を伴なうところ、それを知りながら、無謀にも三宅及び石原が同ゴールを倒しにかかり、良太がこれを受け止めようとして本件事故が起きた(国分中学校では、ゴールを移動させる場合は、教諭がついて二〇名余で行っている。)。
【本件ゴールの倒し方は通常の方法であり、無謀なものではなかった。】
六 本件事故当日は、午後一時から加治木中学校で教職員のバレーボール大会があり、教職員が不在となるため、サッカー部を含むすべての部活動の部員に対し、事故防止のため当日午後の練習を止めるように示達してあった。
【練習禁止の示達は、学校内での練習であって、学校外での遊びや練習を禁止するものではない。】
第四 証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおり。
理由
一 原告ら
請求の原因一の事実は、当事者間に争いがない。
二 事故の発生
当事者間に争いない事実及び証拠(乙二、三宅誠、石原儀人、野崎法宏、小河原忠樹、原告幹人、検証)によれば、以下の事実が認められる。
1 原告ら夫婦の子である前原良太(昭和五六年九月二日生。本件事故当時、国分市立国分中学校一年生。同校サッカー部所属)は、平成六年五月二八日(土曜日)下校後の午後一時三〇分ころ、同日は同中学校の教職員が不在となるため、校内でのクラブ活動が禁止されていたので、サッカーの練習をするため、いずれも、同中学校でサッカー部に所属していた同級生の三宅誠、野崎法宏及び石原儀人とともに本件広場に行った。
2 良太ら四人は、同広場が立入禁止であることを知りながら(三宅二五八〜二六五項、石原二四〇〜二四五項、野崎一一四〜一一六・一三六〜一四二項)、同広場の南東側の二箇所の出入口(別紙(1)(乙二の一部の写しに方位を付記したもの)のC・Dの箇所。以下アルファベットは、同別紙中の箇所を示す。)のいずれかから同広場内に入り(三宅五六〜五八項、石原三〜六項)、当初、北東端のダッグアウト前付近で各自ボールを蹴ったり、リフティング(両足でボールを落とさないように蹴り続ける練習)をしたりして遊んだ。そのうち、ゴールキーパー役をするつもりの三宅は、同ダッグアウト前に二基並べて置いてあったサッカーゴール(各部位の名称は、別紙(2)(乙一〇を縮小したものの写しに付記したもの)のとおり)のうち、北側にあった本件ゴールの位置がダッグアウトに近く、自分が後に倒れると危ないと考え、同ゴールを前に動かそうと提案して、「分かった」といった石原と二人で同ゴールを押して動かそうとしたが動かなかったので、三宅は、同ゴールをいったん倒してから二〜三メートル前方に移動させ、再度立てて使用しようと考え、石原に対し、「倒すが」と声を掛けた上、同ゴールに向かって右側のゴールポストを引っ張り、石原がその背後のゴール支柱(つっかえ棒)を持ち上げて、同ゴールを前方に倒しにかかった(このとき、野崎は、同広場の東側角付近にサッカーボールを拾いに行ったまま、壁に向かってボールを蹴り続けており、同ゴールを見ていなかった。)ところ、同ゴールの前方で右両名とは別に、リフティングをしていた良太(石原七八〜八二・一九七項)の方向に、同ゴールが急きょ倒れてしまい、気づいた良太は、咄嗟に両手を上に出して倒れてきたクロスバーの直撃を避けようとしたが避けきれず、腹部にクロスバーの直撃を受け、下敷きとなった。
〔被告の主張は、良太は倒れてきたクロスバーを避けようとしたのではなく、三宅及び石原が同ゴールを倒すのに応じて、前方から両手でクロスバーを支えようとしたが、勢いと重さに堪えきれず、これを腹部に受けたというものであり、証人三宅(一三〇〜一三七・一五四〜一六〇・三三六〜三四五・三七六・三七七項)及び同小河原(五四〜五八・七二項)の証言中にはこれに沿う部分があるが、同部分は、小河原証言が、三宅から事故後に事情を聞いた伝聞であること(二二〜四〇・一三六・一三七項)、三宅も本件ゴールを倒す際、良太の行動を終始見ていたわけではなく(三宅一三七〜一四〇・四一八・四一九項)、三宅証言が明確な記憶に基づく終始一貫したものでもない(三宅一七八〜一八五項、小河原一五七・一五八項、原告幹人二一〜二三・三八〜五二項)こと、被告の主張どおりであれば、良太は倒れてくる長大な本件ゴールを前方から一人で支えるという、不合理かつ危険極まりない行動に出たことになるが、中学一年生で、少年サッカーの経験もある良太がかかる行動をとったとは考え難いこと及び石原証言(一〇七〜一二二・二一二〜二一八・二六〇・二九三〜三〇一項)に照らし、採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。〕
3 その後、三宅及び野崎は急いで同ゴールを持ち上げ、石原が良太をクロスバーの下から引きずり出し、石原は良太の傍に付き添ったまま待機し、三宅及び野崎は良太の自宅に連絡に行き、良太は、間もなく到着した救急車で国分生協病院に搬送されたが、同日午後三時三〇分、右事故による腹部打撲の傷害に起因する腹腔内出血により死亡した。
三 本件施設及び周辺の状況
1 本件広場周辺の地理的環境
当事者間に争いない事実、証拠(甲九の1、乙一、二、七、八)及び当裁判所に顕著な事実(人文社刊・鹿児島県広域道路地図・20項)並びに弁論の全趣旨(検証の際の見聞)によれば、本件広場のある国分運動公園は、国分市都市公園条例(乙七)により設置された有料公園であり、本件広場の他、陸上競技場、野球場、テニスコート、補助グラウンド等(乙一)からなり、国分市の市街地に近い高台に位置し、周辺には国分中学校、鹿児島第一高校及び第一工業大学等の学校の他、城山団地が存在していることが認められる。
2 本件広場の状況
(一) 工事状況
当事者間に争いない事実及び証拠(甲六、七の1・2、乙四、九、加治木茂、牧国夫)によれば、被告は、平成四年五月、本件広場の建設に着工し、平成五年七月に社会人のラグビー(甲六)や国分テクノ杯ちびっ子サッカー大会(甲七の1・2)で試験的に使用した後、同年八月の豪雨により被害を受けたため、その復旧工事を行い(乙四)、平成六年三月までに大方の工事を終え、同月芝生を植え替え(本件広場は、鹿児島県下でも珍しい全面芝のグラウンドであった。牧三三三・三三四項)、その養生中の同年五月二八日、本件事故が発生し、その後、同年七月二三日に一般公開した(乙九)ことが認められる。
(二) 管理状況
当事者間に争いない事実及び証拠(乙二、三の1〜9、三宅、石原、野崎、加治木、牧、原告幹人)によれば、本件広場は、平成六年三月以降、本件事故当時も、被告の都市計画課が施設管理課に委託して管理しており、芝の刈込み、施肥、巡視等の管理が行われ、また、本件広場の六箇所の出入口(A・B・C・D・F・Gの箇所)のうち、三箇所(A・B・G、乙三の1〜4・9)は門扉を閉じて施錠し、二箇所(B・E、乙三の3・4・7・8)にはそれぞれ目につくところに「芝養生のため立入禁止」と記載した看板を掲げ、一箇所(F)にはロープ二条を張っていたが、二箇所(C・D、乙三の5・6)には、本件事故当時、立入禁止の看板もロープもなく、巡視等がない時間帯に同広場に立ち入る者がいた場合でも、それを阻止することができる状況にはなかったことが認められる。
(三) 使用状況
証拠(乙二、三の1〜9、三宅、石原、野崎、加治木、牧、原告幹人)によれば、良太らは、本件広場に、同年三月ころから本件事故当時まで、合わせて七回程度、無断で立ち入った上、サッカーをしており、他にも大学生や高校生らが同様にサッカー等をしていたこと、被告の都市計画課及び施設管理課の職員らも、本件事故以前に、無断で本件広場に入る者がいたこと、サッカー等をする者もいたことを認識しており(加治木一一一〜一二四項、牧一七四〜一八一項)、その対策として、C・Dの二箇所(乙三の5・6)の出入口にロープと立入禁止の看板を設置する準備をしていた矢先に本件事故が起きたのであるが、同事故直後の同日午後二時三〇分ころから午後三時ころにかけて、同事故の発生を知らなかった職員がロープと看板を設置した(加治木六七〜九一項)ことが認められる。
3 本件ゴールの重量・寸法等及び保管状況
(一) 重量・寸法等
当事者間に争いない事実及び証拠(甲二の4・5、九の2、乙一〇、一一、牧、検証)によれば、本件ゴールは、被告が国分運動公園の陸上競技場及び本件広場で使用する目的で発注し製作させた四基のうちの一基で、アルミ丸パイプ製(一部ステンレス製)の、全体の重さが142.76キログラム(乙一一)、下端が地上2.44メートルである水平なクロスバー、7.32メートルの間隔(内側面の間隔)をもつ二本の垂直なゴールポスト、奥行き1.8メートル(甲九の2、乙一〇)からなっており、後部のゴール支柱(つっかえ棒)を五二〜五四センチメートル持ち上げれば、同ゴールは自動的に倒れ、クロスバー及び両ゴールポストが重量の大半を占め、比重が前部にかかっており(検証)、中学一年生が二〜三名で倒したり移動させたりするには危険を伴うことが認められる。
(二) 保管状況
当事者間に争いない事実及び証拠(乙五、六、一二ないし一四の各1・2、三宅、野崎、加治木、牧、原告幹人)によれば、被告は、平成五年三月、本件ゴールを含むサッカーゴール四基の納品を受けた当初、本件広場の北東側空き地に四基並べて、クロスバーとゴールポストを地面に着けた状態(倒した状態)で保管し(乙五、一二の1・2)、その後は、本件ゴールを含む二基のサッカーゴールを本件広場内において同様の状態で保管していた(乙六、一三の1・2、一四の1・2)が、本件事故当時は、右二基とも、地面に接するパイプ部分に杭を打ち込んで固定することも、倒した状態にすることもなく、同広場の北東端にそれぞれ向きを違えて立てた状態にあったことが認められる。
四 被告の責任(本件ゴールの設置又は管理の瑕疵)と過失相殺
1 請求の原因四の1の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件ゴールの設置又は管理に瑕疵があったか否かを検討する。
(一) 予見可能性
前記認定の事実によれば、
(1) 本件事故当時(平成六年五月二八日)、本件広場は、未だ一般公開前であったが、同年三月には芝の植え替えを終え、同事故当時はグラウンドとして十分使用可能な状況にあった上、同広場が県下でも珍しい全面芝のグラウンドであって、本件ゴールを含むサッカーゴール二基が置いてあり、サッカー少年らの興味をひき易いことに加え、事実上自由に出入りができたC・Dの二箇所の出入口があり、同広場周辺には学校や城山団地があることを合わせ考えると、付近の中学生や高校生(好奇心の強い年頃である)等が同広場を訪れ、サッカーをするために無断で立ち入り、本件ゴールを使用する可能性があったこと、
(2) 良太らは、同広場において、本件事故以前に七回程度、サッカーをしたことがあったこと、
(3) 高校生や大学生等も同広場でサッカーをしており、管理者である被告の職員らもその事実を認識していたのであるから、同広場に立ち入った者が本件ゴールを使用する可能性を認識しえたこと、
(4) 本件ゴールはクロスバー及び両ゴールポストが重量(142.76キログラム)の大半を占め、比重が前部に掛かっているため、後部のゴール支柱(つっかえ棒)を五二〜五四センチメートル持ち上げれば、自動的に前方に倒れ、その場合には、その重量、形状からみて、人に死傷の結果を生じさせる可能性があったこと、
以上のとおり判断される。
(二) 瑕疵の有無
そうとすれば、事実上、C・Dの二箇所から立入りが自由であった本件広場内において、本件ゴールを保管する被告は、同ゴールの転倒による危険が生じないように、立てた状態であればもちろん、倒しておく場合でも、地面やフェンス等に金具等で固定して保管しておく必要があったというべきであるところ(小河原証言(一〇〇〜一〇五項)によれば、国分中学校ではゴールを立てた状態で固定していることが認められる。)、被告は、右のような保管方法をとらず、本件ゴールを含め二基を同広場内にて立てたまま又は単に倒したまま放置していたのであるが、三宅及び石原が行おうとしたゴールをいったん倒してから移動させるという方法は、ゴールの取扱いとして通常予想されるものであって、異常な行動とはいえないと解されることを合わせ斟酌すれば、被告は、本件ゴールを通常備えるべき安全性を欠いた状態に置いていたといえるから、同ゴールの設置又は管理には瑕疵があった(国家賠償法二条一項)というべきである。
〔証人三宅(二七一〜二七四項)及び同小河原(一〇六〜一二八項)の証言によれば、国分中学校では、サッカーゴールを移動させるときは、生徒二十数人でしていることが認められるが、右判断を左右しない。〕
3 過失相殺
(一) 三宅及び石原の過失の斟酌
民法七二二条二項にいう「被害者」とは、被害者本人のみならず、これと身分上ないしは生活関係上一体をなすものをも含むと解すべきである(最高裁判所昭和三四年一一月二六日判決・民集一三巻一二号一五七三頁、同昭和四二年六月二七日判決・民集二一巻六号一五〇七頁、同昭和五一年三月二五日判決・民集三〇巻二号一六〇頁参照)ところ、前記認定のとおり、三宅及び石原が、良太の同級生で、かつ同じサッカー部に所属していたことから、良太と身分上ないしは生活関係上一体をなす者とは認められないから、その過失を本件損害額の算定の際に斟酌するのは相当でない。
(二) 良太の過失
前記認定の事実及び証拠(三宅、石原、野崎)によれば、良太は、本件事故当時、本件広場が一般公開前で立入禁止であることを知りながら、同広場に立ち入ってサッカーの練習をし、また、三宅及び石原が本件ゴールを移動させようとする前に、三宅が「倒すが」と予告した声が良太には聞こえていたと推認されるにもかかわらず、同ゴール転倒の危険性に思い至らず、同ゴールの近くで漫然とリフティングを続け、その結果、転倒した同ゴールの直撃を受けて本件事故に遭遇したものと認められるから、同事故の発生には、良太の右の不注意な行動も寄与しているものというべきであり、これを前記認定、判断した同ゴールの設置又は管理の瑕疵の程度とも対比すれば、二割の過失相殺をするのが相当である。
五 損害 各二五二七万九四九二円
1 良太の治療費等
一万一四八〇円
証拠(甲一四の1・2、原告幹人)によれば、良太の治療費として九四二〇円、死亡診断書料として二〇六〇円、合計一万一四八〇円を要したことが認められる。
2 良太の逸失利益
三六八八万七二五〇円
当事者間に争いない事実及び証拠(甲一三)によれば、請求の原因五の2のとおり認められる。
3 相続各一八四四万九三六五円
原告両名が良太の父母であり、両名のみが相続人であることは当事者間に争いがないので、各原告は、右1及び2の合計三六八九万八七三〇円を各二分の一の割合(したがって、各一八四四万九三六五円)で相続した。
4 原告らの慰謝料
各一〇〇〇万円
原告らが良太の死亡により受けた精神的損害に対する慰謝料としては各一〇〇〇万円が相当である。
5 葬儀費用 各六五万円
証拠(甲一二、原告幹人)によれば、請求の原因五の4のとおり認められるから、各原告の損害は各六五万円となる。
6 過失相殺後の各原告の損害額(弁護士費用を除く)各二三二七万九四九二円
右3ないし5を合計すると各二九〇九万九三六五円となり、これから良太の過失割合の二割を過失相殺すると、各原告の損害は、各二三二七万九四九二円となる。
7 弁護士費用 各二〇〇万円
本件訴訟を概観すれば、原告らの弁護士費用としては、各二〇〇万円が相当である。
8 まとめ
以上によれば、各原告の損害は、各二五二七万九四九二円となる。
六 結論
よって、国家賠償法二条一項に基づき、被告は、原告らに対し、それぞれ二五二七万九四九二円ずつ及びこれに対する本件事故後であり本訴状の被告への送達日の翌日であることが本件記録より明らかな平成六年一〇月一四日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるから、原告らの本件請求は右の限度で理由がある。
(裁判長裁判官簑田孝行 裁判官久留島群一 裁判官野田恵司)
別紙<省略>